【教育の“質”を問う vol.3】CQO×CTO対談・教育×テクノロジーの未来
2000年代半ば、Education×Technologyから“EdTech(エドテック)”という概念が広まり始めた。まだまだ黎明期だった2007年、レアジョブは「テクノロジーを活用した新しい英会話サービス」の事業者として産声を上げる。当時はマッチングビジネスとしての性格が色濃く、教育的側面は未熟な部分が多かったものの、英語教育に当時の先進的な通信技術を掛け合わせる発想は、まさしくEdTechの体現だった。
EdTech Companyとしてのレアジョブが描く“教育×テクノロジーの未来”を、CQO・下又 健とCTO・山田 浩和が語る。
学習の成果を最大化する次の一手は
個別最適化学習の実現
CQO下又
:そもそも、教育業界全体のトレンドとして「グループからマンツーマンへ」という大きな流れがあります。学習成果を高めようとするならそれは自然な変化で、今や英会話レッスンはマンツーマンレッスンが主流です。
では、マンツーマンレッスンの先には何があるのか?キーワードは「個別最適化学習(Personalized Learning)」です。
たとえば“教え方がうまい先生”っていますよね。それは、講師が受講者の理解度や弱点、学習状況などを適切に把握し、一人ひとりに合わせてこまやかに説明や問題設定を変化させているからなんです。学習内容が同じでも、教え方と学び方は受講者ごとに異なる。これが個別最適化学習です。
でも、そのやり方は属人的で、なかなか言語化できません。加えて、講師個人に指導法が依存すると、教育の“質”にバラつきが生まれます。さらに、人的リソースがいるのでコストが高くなる。テクノロジーは、こうした教育課題の解決に必要なんです。
CTO山田
:受講者数が増えると母数が増えて個別に状況把握するのが難しくなりますし、講師が能力的にも人数的にも限りがあるなかで個別最適化を行うとなると、さらに実現可能性が低くなります。講師のパフォーマンスを最適化するためにも、テクノロジーは不可欠ですね。人の力だけでは実現できないことをテクノロジーが担う、というEdTechの本質が発揮されると思います。
たとえば、AIで学習履歴やテストの結果といったデータを収集・解析し、その結果を踏まえてより良い学習法を自動的に推奨する。これは、テクノロジーがあってこそできる学び方のイノベーションです。
CQO下又
:そうですね。たとえば「リスニングが弱点のAさん」と「文法の理解度が低いBさん」が、同じテキストを同じカリキュラムで学習しても、成果には差が生まれてしまうと思いませんか?個別最適化学習では、「何を学ぶか?」から「どう学ぶか?」にシフトしていきます。
CTO山田
:確かに「どう学ぶか?」を提案する場合、その提案を裏打ちするエビデンスとして定量的なデータがあるべきです。それを踏まえ、教育的な知見に基づく学習の提案があり、受講者が実践する際には満足度の高いUX(ユーザーエクスペリエンス・学習体験)を提供していく。教育とテクノロジーが組み合わさって融合してこそ、理想的な個別最適化学習の実現が果たされる。
CQO下又
:まさしく、テクノロジーは教育の“質”を高めるうえで非常に有効です。
一方で、人が学ぶ以上、人の存在感がなくなってもいけないと私は考えています。
マレーシアで塾を経営していた頃、いわゆるeラーニングを利用してみたんです。多様なソフトウェアが揃っていましたが、どうしてもうまく続きませんでした。
たとえば、カウンセラーが応援してくれるから頑張れる。あるいは、学校のような場ではクラスメイトとの競争意識なども、学習意欲を高める力になる例ですね。オンライン英会話も、画面の向こうには生身の講師がいる。対話の楽しさに価値を感じることも、学習を続けていく理由につながります。
CTO山田
:住み分けというか、役割分担というか。下又さんがおっしゃったように、人が介在する方が良いパートは人が担うべきだし、逆に、人が担わなくて良い部分はテクノロジーを使えば良い。何を求めるのかによって、より適した方法を選べるのがベストじゃないでしょうか。
今で言えば、アプリを使った単語学習や動画視聴など、機器を使った学習法はいろいろありますね。時間とコストをかけてあえて人から学ばなくても、そういったツールを利用する方が効率的なケースは少なくありません。
特に、レアジョブはビジネスパーソンを主たるターゲットにしているので、英語学習=学び直し。初めて英語を学ぶ子どもたちとはちがって、忙しいなかで効率的に学習したいというニーズがあるはずです。人とテクノロジーそれぞれの強みを活かし、より良い学習体験の提供と成果を実現させたいですね。
強みを掛け合わせ、価値を生む。
常に学習者を見つめ続けて――
CTO山田
:レアジョブの技術本部では Technology for learners というビジョンを掲げています。
我々は、テクノロジーを使うことだけを目的にしない。何のために、誰のためにテクノロジーを使うのか?という問いかけに対し「学習者の方を向き、学習者のためにテクノロジーを使う」と答えるエンジニア集団でありたいんです。
CQO下又
:確かにオンライン英会話サービスでは、あらゆる面でテクノロジーを介して受講者とつながることになります。教育の“質”を高めるという目的はもちろん、サービス面でもユーザーフレンドリーであることが、学習体験の向上に直結しますね。
CTO山田
:そうですね。たとえば、アプリの開発や機能拡充は、PCよりもスマートフォン利用が増えている受講者の利用環境にフォーカスした取り組みです。
受講者のニーズや困り事に対してしっかりとアンテナを張り、テクノロジーで解決できる部分を探っていく。そんな想いを共有し、行動する組織であることが重要だと考えています。
CQO下又
:教育の観点からレアジョブが目指していくのは、あくまでも「学習成果の最大化」です。これが揺らぐことはありません。テクノロジーの強みを活用しながら、個別最適化学習の先に学習成果を最大化させる。これは今後の方向性であり、CQOとして果たしていくミッションでもあります。
CTO山田
:そこに、テクノロジーの可能性が掛け合わせられますね。
2018年に開発した「レッスンルーム」は、WebRTC技術を用いたレアジョブ独自のレッスン受講システムです。アカウント管理やレッスン画面の改善などUX向上を目指すと同時に、レッスンの音声データの収集・解析を実現する一手でもありました。データドリブンな学習提案にもつながるので、学習成果を最大化させるのにも大いに貢献すると考えています。
CQO下又
:教育サイドでは、レッスン供給や講師採用を担うグループ会社のレアジョブフィリピンに、教育×テクノロジーの先行事例をリサーチするチームを立ち上げました。欧米やアジアの動きを知るほどに、テクノロジーを活かした個別最適化学習の可能性は期待から確信に変わっていきました。
個々の受講生の受講データを収集分析する管理システムの構築、これをベースとして一人ひとりの学習ニーズやゴールに最適化されたカリキュラムの提供、レッスンと予習復習の提案などを、これから具体化させていきたいと考えています。
こうした提案を行うには、当然ながら、受講者が今どんなレベルなのか、何ができて何ができないのかを、明確に測定しなくてはいけません。
2020年6月にリリースした英語スピーキングテスト「PROGOS」は、個別最適化学習を実現する第一歩でもありました。
CTO山田
:「PROGOS」は、AIによる自動採点を実用化したプロダクトです。英語スピーキング力を測定するためのテストだからこそ、担当のメンバーは教育的知識と技術開発の両面を汲んで「PROGOS」の開発を進めていきました。英語の採点基準に関する研究論文を読んだり、スピーキングテストの外部有識者にヒアリングを重ねたり…と、まさしく領域の垣根を超えて学び、連携しながら奔走していました。
CQO下又
:自動採点の実現は、学習成果を高めるうえでも非常に大きな意義があります。テストの受験直後は、学習意欲や反省意識が高まっているタイミング。「PROGOS」の自動採点であれば、受験後から数分程度で結果が返ってくるので、問題の内容や自分なりの出来不出来をしっかりと覚えているうちに振り返れるんです。意欲高く学習を継続していくサポートに役立ちますね。
CTO山田
:「PROGOS」はAIの導入により、低価格かつ正確で、即時にレベル向上につながるフィードバックを可能としたので、学習者のモチベーションがさらに高まると考えています。まさしく、「PROGOS」はテクノロジーの力によって実現された、教育の“質”を高める素晴らしいアドバンテージと言えます。
テクノロジーだけでも、教育だけでもない。
強みをぶつけ合わせ、融合させた先に生まれる価値を、レアジョブとして提供していくことを目指し続けていきたいですね。
※役職、部署名などは2021年3月時点