#01 インターネットで≪人と人をつなぐ≫ C2Cサービスへの想いと、幾度のチャレンジ
目に見えないし、音もしない。色も重さもかたちもない。インターネットには実体がない。
その本質的な存在価値は、まったく異なる次元にある。
インターネットは、世界中を瞬時につなぐ。これが大いなる価値だ。
何かと何かを、どこかとどこかを、そして、誰かと誰かを。
特に≪人と人をつなぐ≫可能性にこそ、中村はわくわくする未来を思い描いていた。
2000年代前半、中村は大学院で情報工学の研究に励む学生だった。
その研究は、サーバを介さずに各端末が直接通信するピアツーピアネットワーク(P2P)を活用し、複数端末でのビデオ会議における品質最適化を図るというものだ。
研究が進めば、新しいアプリケーションやサービスがどんどん登場してくるだろう、と中村は感じていた。
一方で、「それで、どうする?」と、自分自身に問いかけた。
浮かび上がったのは“個”というキーワード。
「インターネットで何をつなぐ?」その答えは「個人だ」と。
中村には、最先端の技術で≪人と人をつなぐ≫という着想が既に芽生えていたのだった。
中村が勤務していた研究所
その後、中村はNTTドコモの研究職として働きながら、中高の同級生だった加藤 智久と起業を決意する。
その過程においても、C2Cの発想軸がぶれることはなかった。
もちろん、事業化に至るまでの道のりが平坦なわけがない。
最初は、ダイレクトに人材をマッチングするサービスを試してみた。
加藤が知人に提案された事業だったが、スキルを持つ人とスキルを欲する人をつなぐ求人募集サイトである。
発想はクラウドソーシングに近い。しかしこの事業はうまく立ち行かず、転換せざるを得なくなった。
ちなみに、この事業で生まれた“レアなスキルを持つ人が、それをジョブにできる”という考え方は、レアジョブという社名に残されている。
次のチャレンジは、オンライン中国語レッスン。
中国人の知人が「Skypeを使って地元の友人と話している」と耳にした加藤が、「海外にいる人と話せば、語学の勉強になるのではないか」と思いついた。
しかも、中村は大学院生の頃のP2P研究を通して、既にSkypeの仕組みを熟知していたのである。
エンジニアとして、事業への活用や対応できるだけの素地は揃っていた。
システムを構築し、二人はさっそくこの新たなサービスの提供をスタートさせる。
オンライン中国語レッスンの様子
…が、このサービスもまったくうまくいかなかった。無料にしてさえ、使おうとする人がいない。
これからは中国語のニーズが伸びるはずだという見通しはあったものの、「今は必要ない」「発音がよくわからない」という声ばかり。これもあえなく失敗に終わった。
しかし、ここまでの挑戦は、成功への種を確実に残してもいた。
つまり、一定のニーズと市場規模が見込める「オンライン英会話サービス」という扉が開いたのだ。
では、なぜ“英会話”だったのか?
中国語レッスンがうまくいかなかった理由の一つに、語学学習で持つべき最低限の知識が少なかった、ということが考えられる。
中学生以上に限定すれば、“This is a pen.”という英文の意味がまったくわからない日本人はほとんどいないだろう。
それは、基本の英文法や英単語を学校で学んでいるし、テレビや音楽などでも英語に触れる機会があるからだ。
しかし、中国語で同じ意味の表現ができる日本人となると、その母数はぐっと減少する。
最低限の文法や単語の知識なくして、会話のステージに進むのは難しい。
逆に言うと英会話ならば、日本人にとっても“会話”の段階からサービスを活用してもらえる基盤が整っていたのである。
加えて、英語と中国語であれば、市場規模の差は歴然だった。
英会話市場なら、ビジネスそのものの認知向上や潜在ニーズを掘り起こす必要がない。
最小限の広告宣伝費でビジネスを成立させられると考えられた。
こうして、中村はオンライン中国語レッスン向けに構築したシステムを英会話用に転用すべく、修正と機能追加を施した。
一方、加藤は事業成功の重要な位置づけを担う講師採用に向け、単身で海外へ飛んだ。
≪人と人をつなぐ≫サービスとはいえ、オンライン英会話はネットオークションのように売り手・買い手が物のやり取りをするものではない。ユーザーに提供するのは、英語に関する知識と学習経験。講師の質がサービスの質にダイレクトに影響を及ぼすのだ。
英語力や人件費などの観点から、講師採用はフィリピンで行うことに決定した。
加藤は「ビジネスパートナーとして組むなら、最も優秀な人材を探すべきだ。優秀な人材を探すなら、最高学府のフィリピン大学へ行こう」と決め、現地へ向かった。
フィリピン大学のキャンパス内
講師を募集するためにフィリピン大学に掲示したチラシ
そして、ここで、加藤はシェムと出会う。彼女こそ、後に講師採用から現地子会社の組織づくりで多大な貢献を果たす女性である。
この出会いは、リアルな場で生まれたものだ。
しかしここでも≪人と人とのつながり≫がきっかけとなり、ビジネスの成功を導くきっかけとなった…と言ったら言い過ぎだろうか。
共同創業者加藤とシェム
創業前から変わらず、中村が抱き続けてきた≪人と人をつなぐ≫C2Cサービスへの想い。
挑戦の積み重ねが、成功を引き寄せ、未来を紡ぐ。
レアジョブにとっては“オンライン英会話という革新的なC2Cサービス”が、前進の原動力だった。