Challenge

ビジョンを描く、挑戦の物語
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英語教育
2020/08/18

【教育の“質”を問う vol.1】本当に「英語が話せる」ようになるサービスを作りたい。 英会話スクールからオンライン英会話事業に飛び込んだ理由

2015年、フィリピン大学ディリマン校での講演の様子

語学教育業界には、100年を超える歴史がある。
長きにわたって築かれてきた教育的知見や実績、受講者からの信頼感。
それらが組み合わさって実現されるのが、いわゆる“教育の質”だ。

下又は、英会話スクールなどでプログラム企画や研修事業に携わってきた。
教育の質を売りにするオフライン事業に身を置く一方で、高額な授業料というビジネスの構造上、英会話力を上げるために十分な発話量を確保するのが難しいという課題にぶつかってもいた。
2010年代中頃まで、当時のオンライン英会話と比較すると英会話スクールは実績や知見が多く、教育の質が高いという認識が一般的であった。
しかし、レッスンの受講頻度は週1回多くても2回。
頻度が少ないので、継続的に発話量を確保する、理想的な学習機会を提供できている…とは言いがたかった。
それは、ネイティブ講師の高い人件費や、駅前立地の家賃などの高額な運営コストを要し、生徒は高額な受講料を払わなければならないというオフラインであるがゆえのビジネスモデルとなってしまっていたからだ。
課題は明白なのに、解決の手立てを見つけられない…下又はそんなジレンマを抱えていた。

レッスン数のイメージ。オフラインより安くかつ、圧倒的に話せる

光明は、思いがけない角度から差し込んできた。
その突破口は、オンライン英会話事業。
テクノロジーを活用すれば、運用コストを格段に下げられる。
リーズナブルな価格でもマンツーマンレッスンを毎日受講でき、圧倒的な“発話量”を確保できるのだった。

下又は、常に「英語教育は実技科目」という考えを持っていた。
英語が話せるようになるためには、週に1度のレッスンでは不十分だ。
たとえ30分でも毎日話してこそ、圧倒的に早く話せるようになるとの確信があった。
しかし、毎日英会話スクールでレッスンを受けるとなると、非常に高額な受講料となってしまう。
誰でも受講できるものではなかった。

一方、オンライン英会話ならば、1カ月毎日話しても英会話スクールの1レッスン程度の受講料で済む。
そのサービス特性に、下又は大きな可能性を感じていた。

ところが、その当時のオンライン英会話は、オフラインと比べるとレッスンの質が高いとは言えない状況だった。
つまり、オンラインレッスンの質をいかにして高めていくか?という大きな壁が立ちはだかっていた。

そもそも、オンライン英会話事業は歴史が浅い。2000年代半ばに誕生したばかりの新しいサービスだ。
テクノロジーというアドバンテージがあるものの、語学教育業界の新参が、オフラインで培われてきた教育の質の重み、歴史の厚みに挑めるのか。
オンラインでのレッスン提供は、語学教育をどこまで変革できるのか。

それでも、挑戦してみる価値はある。ゼロスクラッチだからこそ自由度も高い。
模倣でも追随でもない新たな可能性を信じ、2014年10月、下又はレアジョブに入社した。

入社した2014年のクリスマスパーティ。後のレアジョブフィリピンCEO・ 稻葉と

もともと、レアジョブは「英語を学びたい日本人」と「英語を教えるスキルのあるフィリピン人」のマッチングからビジネスをスタートさせている。
ある種のIT事業者としての性質が色濃く、また、新しいサービスの提案という意味ではそれで問題なかった。

一方で、乱立していた同業者が少しずつ淘汰され、大手企業が参入してくるようになり、オンライン英会話業界自体が次なる成長を模索し始めていた。
また、オンライン・オフラインの垣根が取り払われ、「要は、どれだけ成果を出せるのか?」というレッスンの“質”自体が問われる状況へと変化しつつあった。

つまり、教育事業者としての姿勢、そして提供する教育の質が問われるフェーズに入ったのだ。

教育――学習効果を最大化し、着実に“成果”を出すための教育――は、ピラミッド構造が基本となる。
土台となるのは、英語教育の知見。これなくして、真の意味で質の高い教育はなしえない。
基礎知識はもちろん、ニーズの変化への対応、新たな思想や手法の導入など、絶えずより良い方法を追究し続けてこそ、ベースの土壌が豊かになっていく。
そこから積み上げていくのが、多様な可能性を広げる手立てとしてのテクノロジーだ。
最初は、オンラインレッスンという手法から始まった。オフラインで提供されているものをオンラインとして提供するだけでは、オフラインサービスには勝てない。
オンラインならではの強みや、付加価値を出していく必要がある。
自動音声のスピーキングテストやAIによる自動採点なども、テクノロジーが生み出す価値と言えるだろう。

重要なのは、教育の基盤をしっかりと固めたうえでテクノロジーを活用すること。
教育事業者としてサービスを提供するのであれば、この順序でなければ成立しない。
つまり当時のレアジョブが最初に挑むべきは、教育の知見に基づく足元固めだった。
そこで、下又はレアジョブの教育的領域を担うブレーンとして、入社後半年後にQuality Control Department (品質管理部・当時)を立ち上げた。

レアジョブフィリピンのスタッフ向けに行った講演

しかし、教育の質と真摯に向き合おうとするならば、情熱だけ、体制だけでは足りない。

レアジョブは「日本人1,000万人を英語が話せるようにする。」というサービスミッションを掲げている。
しかし実際のところ「英語が話せる」とは、どういう状態を指すのだろうか。
“This is a pen.”の意味がわかって、発音できることを「英語が話せる」とは言わないのか?
ネイティブスピーカーと遜色ないほど流暢に、多彩な語彙や表現を使いこなせるのが「英語が話せる」だとしたら、いったいいくつの英単語を覚え、何種類のフレーズを使えればよいのだろう?

当時、その問いに明確な答えはなかった。
レアジョブにも、世の中の理解としても、実は「英語が話せる」ことの定義は個々の団体でばらつきが大きく、共通で使われる英語レベルの指標はまだ浸透していなかったからだ。

「英語が話せる」の定義。
スタートラインは見えた。それは同時に、進むべき道のヒントにもなる。
そして、下又の脳裏には“あるもの”が浮かんでいた。
2001年に誕生し、ヨーロッパから世界に広がっていた言語に関するグローバルな指標。
日本でも2010年頃から、オフライン業界が先んじて注目していた新しい語学教育の考え方。

それが、CEFRだった。

CEFRなら、外国語の学習から指導、評価を客観的に考え、示す指標として活用できる。
レアジョブが本気で教育の質を高めていくための道しるべとして、大いなるポテンシャルを秘めていた。
しかし同時に、実用化の難しさも、下又にはわかっていた。
当時の日本のオンライン英語教育において、CEFRを本質的に取り入れ、実用化している前例はまだあまりない状況だった。
もちろん当時のレアジョブにてCEFRの話をしても誰もその意味や価値を把握している者はいなかった。
未知なる挑戦、それもかなりハードで長期的な挑戦になることは明白だった。

ならば、ひとつずつやっていくまでだ。
既に、下又の覚悟は決まっていた。

下又 健
執行役員 Chief Quality Officer プログラム開発本部長
新卒でリクルートに入社。海外で起業したいとの想いから、その後単身でマレーシアへ渡り教育事業を立ち上げ、14年間会社を経営。帰国後は、マレーシアでの起業・経営経験を活かし、バンダイやベルリッツにて英語教材の開発やグローバル人材育成事業に従事。2014年、レアジョブに入社。CQOとして教材開発や講師の指導品質向上などを管掌。2015年、執行役員に就任。